M&A取引における正確なアーンアウト条項の策定の重要性

2019年春、Pacira Biosciences, Inc.(以下「Pacira社」)は、MyoScience, Inc.(以下「MyoScience社」)を買収した1 。買収当時、MyoScience社は「iovera」と呼ばれる1つの製品のみを保有しており、これは主に疼痛緩和に使用される携帯型デバイスである2 。両当事者は1億2000万ドルのアップフロント購入価格で合意し、その後、旧MyoScience社の株主およびオプション保有者は、最大1億ドルの条件付アーンアウト支払を受ける権利を有していた3 。条件付アーンアウト支払いの5000万ドルは、Centers for Medicare & Medicaid Services(以下「CMS」)の償還率に連動していた4

償還率は、American Medical Association(以下「AMA」)が定義し更新する処置コード番号を使用して設定される5 。CMSは、各コード化された処置について、MedicareとMedicaidが医療機関に償還する金額を定めているが、この金額は医療環境や地域によって異なり、大幅に異なる可能性がある6 。2018年5月、上記買収に先立ち、AMAは後に確定する予定の新しい処置コード64xx1を発表した。MyoScience社は、この新しい処置コードによってioveraを使用する処置の償還率が上昇し、それによって製品の価値も高まることを期待していた7

償還率、ひいてはioveraの価値が不確実であることを踏まえ、上記5000万ドルの条件付アーンアウト支払いは、以下のマイルストーンに基づくioveraの償還率に連動するものとされた。

  • 診療所での1処置あたりのCMS償還率が600ドルに達した場合に2000万ドルを支払う。
  • 外来手術センターでの1処置あたりのCMS償還率が800ドルに達した場合に2000万ドルを支払う。
  • 外来病院での1処置あたりの償還率が1400ドルに達した場合に1000万ドルを支払う8

CMSは2019年11月に2020年の最終的な償還率を発表し、Pacira社は、その償還率に基づいて、外来病院のマイルストーンのみが達成されたと判断した9 。2020年5月、MyoScience社の株主の代表者であるFortis Advisors, LLC(以下「Fortis社」)は、追加のコードが使用され、診療所および外来手術センターのマイルストーンについても支払い基準額を超える償還率が得られたことから、これらのマイルストーンも達成されたと主張する書簡をPacira社に送付した10 。Pacira社(原告)は、確認判決を求める訴訟を提起し、Fortis社(被告)は、契約違反を理由に反訴を提起した11

裁判所の契約解釈

デラウェア州衡平法裁判所は、次の2つの論点を根拠に、この訴訟は契約解釈の問題であると判断した。すなわち、(1)アーンアウトマイルストーンの達成を判断する際に、当該マイルストーンを発動させる特定の地域調整後レートを使用すべきであったかどうか、(2)アーンアウトマイルストーンは、合併時にAMAが最終決定した臨時コード64xx1以外の追加の処置コードによっても発動される可能性があったかどうか、の2つの論点について判断した12

1つ目の論点について、Fortis社は、地域調整後償還率と全国償還率の両方に基づいてマイルストーンは達成された、と主張したが、Pacira社は、マイルストーンの発動は全国償還率のみに基づいて判断されるべきである、と主張した13 。同裁判所は、マイルストーンが全国償還率または地域調整後償還率のいずれで測定されるかについて、買収契約の文言は曖昧であると判断し、当事者の意図を決定するために、外的証拠を検証した14 。同裁判所は、外的証拠に基づき、買収契約締結時の当事者の意図が、全国償還率をマイルストーンの評価基準とするものであったことは明白である、と認定した15 。同裁判所は、外的証拠の中でも特に、当事者が交渉全体を通して全国償還率について議論した一方で、地域調整後償還率については一度も議論されなかったこと、また、買収後に当事者が全国償還率についてのみ議論したことを指摘した16

2つ目の論点について、Pacira社は、処置コード64xx1のみが、アーンアウトマイルストーンを発動させる、と主張したが、Fortis社は、当該マイルストーンは処置コード64xx1に限定されない、と主張した17 。同裁判所は、買収契約の平易な文言、すなわち、64xx1と「異なる」コードは別個に扱われるとの文言に着目し18 、買収当時、コード64xx1が効力発生前の導入予定のコードを参照していたことから、コード64xx1には、当該導入予定のコードは含まれる19 が、「異なる」コードに対する償還が認められるには、そのコードが有効であるだけでなく、ioveraが実際に使用される処置を記述するものでなければならない、と解釈した20 。Fortis社は、異なるコードが有効であることを示すことはできたが、そのような他の処置コードにおいてioveraが実際に使用されたことを証明することはできなかった21 。従って、同裁判所はPacira社の主張を認めた。

重要なポイント

本件で明らかなように、アーンアウト条項は、買い手と売り手の間で曖昧さを回避するために、正確に作成される必要がある。多くの場合、買い手と売り手の双方がそのようなマイルストーンの達成から利益を得るが、両当事者は、それらのマイルストーンの測定方法を一致させる必要がある。そして、本件のようにマイルストーンの測定について解釈の余地がある場合には、双方がアーンアウト条項の曖昧な部分を認識し、解決することが重要である。裁判所は、Pacira訴訟のように、マイルストーンが達成されたかどうかを判断する際に、アーンアウト条項の平易な文言を検討すると考えられる。これらのアーンアウト条項は、マイルストーンを明確にするために慎重に作成される必要がある。そうすれば、当事者および裁判所は、アーンアウトのマイルストーンがいつ達成されたのかを把握できる。

さらに、Pacira訴訟により、裁判所が曖昧なアーンアウト条項を解釈する際に、外的証拠に目を向ける可能性があることが示された。このような状況下では、外的証拠が裁判所の判断を左右する決め手となる可能性があり、当事者は、当事者間のコミュニケーションや交渉が、裁判所が当事者の意図を判断する際の証拠となる可能性があることを認識しておく必要がある。

この記事はJenner & Blockニュースレターに掲載されています。

[1] Pacira Biosciences, Inc. et al. v. Fortis Advisors, LLC, C.A. No. 2020-0694-PAF (Del. Ch. Jan. 21, 2025).

[2] Id. at 2.

[3] Id. at 11.

[4] Id.

[5] Id. at 3

[6] Id.

[7] Id. at 7.

[8] Id. 12-13.

[9] Id. at 15. 

[10] Id. at 16.

[11] Id. at 17.

[12] Id. at 19.

[13] Id. at 18.

[14] Id. at 28.

[15] Id.

[16] Id. at 29-30.

[17] Id. at 33.

[18] Id. at 38.

[19] Id. at 36.

[20] Id. at 38.

[21] Id. at 41.

Footnotes

[1] Pacira Biosciences, Inc. et al. v. Fortis Advisors, LLC, C.A. No. 2020-0694-PAF (Del. Ch. Jan. 21, 2025).

[2] Id. at 2.

[3] Id. at 11.

[4] Id.

[5] Id. at 3

[6] Id.

[7] Id. at 7.

[8] Id. 12-13.

[9] Id. at 15. 

[10] Id. at 16.

[11] Id. at 17.

[12] Id. at 19.

[13] Id. at 18.

[14] Id. at 28.

[15] Id.

[16] Id. at 29-30.

[17] Id. at 33.

[18] Id. at 38.

[19] Id. at 36.

[20] Id. at 38.

[21] Id. at 41.

© 2026 Jenner & Block LLP. Attorney Advertising. Jenner & Block LLP is an Illinois Limited Liability Partnership including professional corporations. This publication, presentation, or event is not intended to provide legal advice but to provide information on legal matters and/or firm news of interest to our clients and colleagues. Readers or attendees should seek specific legal advice before taking any action with respect to matters mentioned in this publication or at this event. The attorney responsible for this communication is Brent E. Kidwell, Jenner & Block LLP, 353 N. Clark Street, Chicago, IL 60654-3456. Prior results do not guarantee a similar outcome. Jenner & Block London LLP, an affiliate of Jenner & Block LLP, is a limited liability partnership established under the laws of the State of Delaware, USA and is authorised and regulated by the Solicitors Regulation Authority with SRA number 615729. Information regarding the data we collect and the rights you have over your data can be found in our Privacy Notice. For further inquiries, please contact dataprotection@jenner.com.

M&A取引における正確なアーンアウト条項の策定の重要性

2019年春、Pacira Biosciences, Inc.(以下「Pacira社」)は、MyoScience, Inc.(以下「MyoScience社」)を買収した1 。買収当時、MyoScience社は「iovera」と呼ばれる1つの製品のみを保有しており、これは主に疼痛緩和に使用される携帯型デバイスである2 。両当事者は1億2000万ドルのアップフロント購入価格で合意し、その後、旧MyoScience社の株主およびオプション保有者は、最大1億ドルの条件付アーンアウト支払を受ける権利を有していた3 。条件付アーンアウト支払いの5000万ドルは、Centers for Medicare & Medicaid Services(以下「CMS」)の償還率に連動していた4

償還率は、American Medical Association(以下「AMA」)が定義し更新する処置コード番号を使用して設定される5 。CMSは、各コード化された処置について、MedicareとMedicaidが医療機関に償還する金額を定めているが、この金額は医療環境や地域によって異なり、大幅に異なる可能性がある6 。2018年5月、上記買収に先立ち、AMAは後に確定する予定の新しい処置コード64xx1を発表した。MyoScience社は、この新しい処置コードによってioveraを使用する処置の償還率が上昇し、それによって製品の価値も高まることを期待していた7

償還率、ひいてはioveraの価値が不確実であることを踏まえ、上記5000万ドルの条件付アーンアウト支払いは、以下のマイルストーンに基づくioveraの償還率に連動するものとされた。

  • 診療所での1処置あたりのCMS償還率が600ドルに達した場合に2000万ドルを支払う。
  • 外来手術センターでの1処置あたりのCMS償還率が800ドルに達した場合に2000万ドルを支払う。
  • 外来病院での1処置あたりの償還率が1400ドルに達した場合に1000万ドルを支払う8

CMSは2019年11月に2020年の最終的な償還率を発表し、Pacira社は、その償還率に基づいて、外来病院のマイルストーンのみが達成されたと判断した9 。2020年5月、MyoScience社の株主の代表者であるFortis Advisors, LLC(以下「Fortis社」)は、追加のコードが使用され、診療所および外来手術センターのマイルストーンについても支払い基準額を超える償還率が得られたことから、これらのマイルストーンも達成されたと主張する書簡をPacira社に送付した10 。Pacira社(原告)は、確認判決を求める訴訟を提起し、Fortis社(被告)は、契約違反を理由に反訴を提起した11

裁判所の契約解釈

デラウェア州衡平法裁判所は、次の2つの論点を根拠に、この訴訟は契約解釈の問題であると判断した。すなわち、(1)アーンアウトマイルストーンの達成を判断する際に、当該マイルストーンを発動させる特定の地域調整後レートを使用すべきであったかどうか、(2)アーンアウトマイルストーンは、合併時にAMAが最終決定した臨時コード64xx1以外の追加の処置コードによっても発動される可能性があったかどうか、の2つの論点について判断した12

1つ目の論点について、Fortis社は、地域調整後償還率と全国償還率の両方に基づいてマイルストーンは達成された、と主張したが、Pacira社は、マイルストーンの発動は全国償還率のみに基づいて判断されるべきである、と主張した13 。同裁判所は、マイルストーンが全国償還率または地域調整後償還率のいずれで測定されるかについて、買収契約の文言は曖昧であると判断し、当事者の意図を決定するために、外的証拠を検証した14 。同裁判所は、外的証拠に基づき、買収契約締結時の当事者の意図が、全国償還率をマイルストーンの評価基準とするものであったことは明白である、と認定した15 。同裁判所は、外的証拠の中でも特に、当事者が交渉全体を通して全国償還率について議論した一方で、地域調整後償還率については一度も議論されなかったこと、また、買収後に当事者が全国償還率についてのみ議論したことを指摘した16

2つ目の論点について、Pacira社は、処置コード64xx1のみが、アーンアウトマイルストーンを発動させる、と主張したが、Fortis社は、当該マイルストーンは処置コード64xx1に限定されない、と主張した17 。同裁判所は、買収契約の平易な文言、すなわち、64xx1と「異なる」コードは別個に扱われるとの文言に着目し18 、買収当時、コード64xx1が効力発生前の導入予定のコードを参照していたことから、コード64xx1には、当該導入予定のコードは含まれる19 が、「異なる」コードに対する償還が認められるには、そのコードが有効であるだけでなく、ioveraが実際に使用される処置を記述するものでなければならない、と解釈した20 。Fortis社は、異なるコードが有効であることを示すことはできたが、そのような他の処置コードにおいてioveraが実際に使用されたことを証明することはできなかった21 。従って、同裁判所はPacira社の主張を認めた。

重要なポイント

本件で明らかなように、アーンアウト条項は、買い手と売り手の間で曖昧さを回避するために、正確に作成される必要がある。多くの場合、買い手と売り手の双方がそのようなマイルストーンの達成から利益を得るが、両当事者は、それらのマイルストーンの測定方法を一致させる必要がある。そして、本件のようにマイルストーンの測定について解釈の余地がある場合には、双方がアーンアウト条項の曖昧な部分を認識し、解決することが重要である。裁判所は、Pacira訴訟のように、マイルストーンが達成されたかどうかを判断する際に、アーンアウト条項の平易な文言を検討すると考えられる。これらのアーンアウト条項は、マイルストーンを明確にするために慎重に作成される必要がある。そうすれば、当事者および裁判所は、アーンアウトのマイルストーンがいつ達成されたのかを把握できる。

さらに、Pacira訴訟により、裁判所が曖昧なアーンアウト条項を解釈する際に、外的証拠に目を向ける可能性があることが示された。このような状況下では、外的証拠が裁判所の判断を左右する決め手となる可能性があり、当事者は、当事者間のコミュニケーションや交渉が、裁判所が当事者の意図を判断する際の証拠となる可能性があることを認識しておく必要がある。

この記事はJenner & Blockニュースレターに掲載されています。

[1] Pacira Biosciences, Inc. et al. v. Fortis Advisors, LLC, C.A. No. 2020-0694-PAF (Del. Ch. Jan. 21, 2025).

[2] Id. at 2.

[3] Id. at 11.

[4] Id.

[5] Id. at 3

[6] Id.

[7] Id. at 7.

[8] Id. 12-13.

[9] Id. at 15. 

[10] Id. at 16.

[11] Id. at 17.

[12] Id. at 19.

[13] Id. at 18.

[14] Id. at 28.

[15] Id.

[16] Id. at 29-30.

[17] Id. at 33.

[18] Id. at 38.

[19] Id. at 36.

[20] Id. at 38.

[21] Id. at 41.

Footnotes

[1] Pacira Biosciences, Inc. et al. v. Fortis Advisors, LLC, C.A. No. 2020-0694-PAF (Del. Ch. Jan. 21, 2025).

[2] Id. at 2.

[3] Id. at 11.

[4] Id.

[5] Id. at 3

[6] Id.

[7] Id. at 7.

[8] Id. 12-13.

[9] Id. at 15. 

[10] Id. at 16.

[11] Id. at 17.

[12] Id. at 19.

[13] Id. at 18.

[14] Id. at 28.

[15] Id.

[16] Id. at 29-30.

[17] Id. at 33.

[18] Id. at 38.

[19] Id. at 36.

[20] Id. at 38.

[21] Id. at 41.

© 2026 Jenner & Block LLP. Attorney Advertising. Jenner & Block LLP is an Illinois Limited Liability Partnership including professional corporations. This publication, presentation, or event is not intended to provide legal advice but to provide information on legal matters and/or firm news of interest to our clients and colleagues. Readers or attendees should seek specific legal advice before taking any action with respect to matters mentioned in this publication or at this event. The attorney responsible for this communication is Brent E. Kidwell, Jenner & Block LLP, 353 N. Clark Street, Chicago, IL 60654-3456. Prior results do not guarantee a similar outcome. Jenner & Block London LLP, an affiliate of Jenner & Block LLP, is a limited liability partnership established under the laws of the State of Delaware, USA and is authorised and regulated by the Solicitors Regulation Authority with SRA number 615729. Information regarding the data we collect and the rights you have over your data can be found in our Privacy Notice. For further inquiries, please contact dataprotection@jenner.com.

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